若手に読んでもらいたい本

摘要

液体の膜や泡などの表面と界面の科学はさまざまな高分子材料とその周辺分野できわめて重要な役割を果たしています。今回紹介するC.V.Boys著のSoap Bubbles: Their Colors and Forces Which Mold Them(邦訳：シャボン玉の科学(矢田義男訳、槇書店(1959))、シャボン玉の世界(野口 広訳、東京出版(1975))は1890年に初版が出版されています。この本の中にはさまざまな液体の膜や泡にかかわる現象が、そのレトロな83枚の絵と簡単な実験を通してわかりやすく説明されています。筆者のサー•チャールズ・バーノン•ボイズ(Sir Charles Vernon Boys、1855-1944)は、イギリスの物理学者であり、英国王立研究所フェローとして活躍し、精密で革新的な実験によって知られています。この本はボイズの「英国王立研究所」クリスマス•レクチャーを中心とする内容をまとめて出版したものです。毛管現象、石けんを用いないシャボン玉、シャボン玉の結合、シャボン玉の色と厚みなどに関するやさしい解説は表面科学の基本を記したものです。またその当時画期的であった高速度写真撮影(電気のスパークでとった写真：ボイズカメラ)を水のジェットや弾丸の撮影に適用し、表面張力の流体力学に及ぼす影響を可視化しています。またボイズは自然にかかわる現象として、水面での青浮き草、水蜘蛛やボウフラの水表面での様子を表面張力に基づき解説しています。最近、バイオミメティックスで話題となっている蜘蛛の糸の表面での水滴の形状もこの本で取り上げられています。しかも、それを石英の微細繊維の表面処理で模倣しており、その先見性には驚きます。1890年というきわめて早い時期にに表面•界面の現象の本質を理解し、英国王立研究所のクリスマス•レクチャーでー般大衆に紹介したというボイズを教育者•研究者として敬服します。