万巻の書を読み、万里の道を行く

摘要

中国には『万巻の書を読み、万里の道を行く』という言葉があり、それは本から得た知識以外に自らの足で各地を遊学し、見聞を広めなければいけないという意味である。筆者は大学時期に『万里の道を行く』の抱負をもち、留学の進路を決めた。9年前に、大連理工大学 (出身校）と熊本大学の短期留学プログラムで初めて日本に渡り、短い時間でも日本の先進と日本人の勤勉が印象づけられ、日本への長期留学を決心した。修士号を取得後、最先端の高分子科学技術を学びたいという願いをもち、東北大学の博士後期課程へ入学した。大文豪魯迅（東北大学の中国留学生第一人者）が文学への転向を決意したところで、自分の留学暮らしを始めた。 博士号を取得後、東北大学原子分子材料科学高等研究機構の助手、東京工業大学の特任助教を経て、今東京工業大学の助教を務めている。来日以来、高分子材料のナノスケール力学物性とバルクの力学物性の相関性に着目し、ナノスケールの空間分解能でかつピコニュートンという微小な力の検出が可能である原子間力顕微鏡（AFM)を活用して、高分子材料などの材料表面のナノ力学物性を評価できるナノ触診AFMによる研究を行っている。微小な領域における機能機構を理解することで構造制御へのフィードバックを通じ、高分子物性の高性能化と機能化を実現することに興味をもつている。最近、従来のナノ触診AFM手法を拡張し、伸長下の試料のナノ構造とナノ応力分布を同時に取得するという手法を開発し、高分子材料の補強機構と破壊メカニズムを解明する研究を行っている。従来のナノ触診AFMは研究者から大きな注目を浴びており、ナノ応力分布計測への拡張は将来の研究に強いパワーを発揮することが期待される。ナノ触診AFMという技術が高分子材料の開発と評価に実用化できることから、民間企業との共同研究も多数行っている。日本が企業と大学の提携の弱い時代を踏み越え、産学官連携と知的財産の活用時代になったことに感心させられる。一方、中国では、大学からの学術論文数が米国を抜いて世界一になつたのに、中国企業のイノベーションが不足である現状に応じ、「壁」の打破と連携強化が必要だと感じている。また、急速な発展時期における日本の科学研究に対する姿勢や政策は、経済が飛躍的に発展している中国に対して参考の価値があると思う。