スイス•ドイツ語圏におけるバーゼル建築賞の特徴: チューリッヒ市建築賞との比較に見る地方自治体が運営する建築賞に関する研究

摘要

Auszeichnung guter Bauten in Kanton Basel-Stadt, Kanton Basel-Landschaft is an architectural prize established by the Basel municipal authority in 1980. The intent of this paper is to clarify the features of philosophy, policy, publicity, jury organization and award-winning works of the prize in the German-speaking part of Switzerland comparing the case of the Basel with the City of Zurich. For the features of philosophy and policy, the Basel prize is influenced by the City of Zurich. On the other hand, features of jury organization are different from the City of Zurich. In Basel the jury's profession is various such as art historian, engineer, critic and building user. This difference causes the building types of the award-winning works, including the technical buildings, infrastructural works and so on.%本稿は、スイス•都市バーゼル半州(Kanton Basel-Stadt)と地方バーゼル半州(Kanton Basel-Landschaft)によって運営される、バーゼル建築賞(Auszeichnung guter Bauten im Kanton Basel-Stadt, KantonBasel-Landschaft、以下、本賞)の理念、方針、広報、審査体制、受賞作品に着目し、スイス•ドイツ語圏において地方自治体が運営する建築賞における特徴を、チューリッヒ市建築賞(Auszeichnung fuergute Bauten der Stadt Zurich)との比較から明らかにするものである。スイスでは多数の建築賞が催され、その全体像については、芸術学者Cordula Segerによる建築専門誌『Hochparterre』所収の論考がある。このうち、最も早いのはスイス•ドイツ語圏のチューリッヒ市建築賞で、1945年に創設され、自治体が主催している。同様の賞は、1980年代に各地で開催されるようになり、スイス•ドイッ語圏に着目すると、バーゼル、ルツェルン(Luzern)、ツーク(Zug)などがあげられる。『チューリッヒ市建築賞50年史』(50 Jahre Auszeichnung fuer gute Bauten in der Stadt Zuerich)が「チューリッヒ巿建築賞の取り組みを参照しょうとスイス国内の他都市に留まらず、国外からも問い合わせがあった」と記すように、同賞はスイス各地へ大きな影響を及ぼした先駆的事例である。筆者らは、既報でチューリッヒ市建築賞を対象として、その審査体制、受賞作品の建築種別、広報の3点に着目し、同賞の理念と運営手法の特徴について論じた。そして、チューリッヒ市の都市形成過程と審査体制、受賞作品の建築種別に密接な関係があることを明らかにした。しかし、『チューリッヒ巿建築賞50年史』からは、他州の建築賞の理念、方針や広報、審査体制や受賞作品の選定が、先行して開催されたチューリッヒ巿建築賞の影響をどの程度受けているのかを具体的に読み取ることはできない。