チャウシェスク政権前期における正教会と歴史遺産政策ルーマニアにおけるポスト社会主義の文化遺産政策と世界遺産の役割に関する研究-1

摘要

1989年に連鎖的に引き起こされた東欧の社会主義国家の崩壊は、政治経済面だけでなく文化の枠組みにも決定的な変化を及ぼした。その最後に位置づけられる同年12月のルーマニア革命は、自主独立の社会主義路線にともなって強化されたプロパガンダ的文化政策の破綻をもたらすが、建築遺産の領域においても根本的な変化を余儀なくされた。それまでのイデオロギー重視の「社会主義的」な遺産行政が抜本的に改編され、ユネスコ世界遺産等を軸として国際社会との連携をはかる新たな政策が導入される。こうした脱社会主義化のプロセスはこの国の地域文化の基層を形成するルーマニア正教会の復権を促し、教会が本格的に遺産保護に乗り出す契機ともなつた。本研究は、第二次大戦後に始まった社会主義時代とりわけ1965年以降のチャウシェスク政権期と1990年以降の脱社会主義期を比較検討し、正教会の関与の仕方と遣産保護体制の転換について考察を重ねるとともに、ユネスコ世界遣産政策が及ぼしたインパクトについて精査し、「チャウシェスク政権前期における遣産政策」、「チヤゥシェスク政権後期における宗教施設の破壊」、「ルーマニア革命と世界遺産政策の導入」、「修道院保存修復事業の実施事例」の4編に分けて論を展開するものである。