パズルのピースが集まり浮かび上がる伝説: 戦後日本住宅伝説——挑発する家•内省する家

摘要

埼玉県立近代美術館(設計：黑船紀章，竣工：1982年)において，1950年代から1970年代後半までに建てられ，名作とされる16の住宅に関する展示が開催された。日本においてその当時は，戦後の住宅不足を解消すベく法の整備がなされたことを背景に，住宅が大量に世の中に供給された時代である。1950年に建築基準法，建築士法が制定。住宅金融公庫も設立され，高所得者向けの資金融資の仕組みがつくられた。1951年には，公営住宅法が制定された。それにより工業製品としての住宅が次々に供給され，1964年の東京オリンピック開催の刺激も受け，マンションブームが起こった時代でもある。一世代一住宅から一人一室へと，住宅建設が加速されるのを目の当たりにしながら，自分たちの考える住空間を模索し実現していった先達の思いに感銘を受けた。自らの家族を想い，クライアントの想いに沿うことで生まれる数々の珠玉の空間。時代の流れに抗うのではなく，工業製品とは異なる価値を持つ住宅を提案し続けるという，建築家の執念をも感じ取ることができる。