がん患者を看取っていく際の臨床心理土の役割: 緩和ケアチームでの事例を通して

摘要

がんを患うことにより病気に対する不安だけでなく，もともと持っていた心理社会的問題や家族の問題が表面化したり，家族の役割が変化したりすることによって，気持ちが混乱し心理的支援が必要になることもある.本事例では30代の若い患者が，病気の進行に伴い徐々に身体機能が低下し，死が近づいてきていることを感じる日々を，つらさと孤独を抱えながら過ごしていた.心理面接の中で患者は悲嘆や叶えたかつた希望を語り，これまでの人生を振り返り，今の状況の中でのささやかな幸せを見出せるように変わつていった.患者は「お母さんを私の心に連れて行く」と表現したが，自分がこの世を去っても互いの中で関係性はつながり続けることを信じるに至った.この事例に見られるように，がん患者を看取つていく過程の中で心理士が関わる意義は，患者と医療者，患者と家族をつなぎながら患者の人生という視点の中で心理的見立てを提供することにあると考える.