シンポジウム•シリーズ「都巿空間の物質性（マテリアリティ）」第1回都市•建築と物質のあいだ

摘要

本シリーズは都巿史を空間の物質性(マテリアリティ）という観点から再考しようとするものである。物的側面から建築を考えることは、（狭義の）建築史ではある意味で当然の方法として行われてきたが、どうしても建築が中心に扱われてきた。一方、これまでの都巿史、例えば「社会=空間構造」論では地図上の分布論にとどまりがちであった。しかし、近年の災害による建築や都市空間の物理的な破壊は、それらが単なる物質からできていることに改めて気づかせてくれた。災害時の破壊やその後の仮設のバラック建設には、建築•都市空間と物質の間を振幅するような原初的な様相が見出せる。物質としての側面が強く規定するこの局面には；人々や社会とは別個の論理が示唆されていよう。このように物質性に固有の次元を見出そうとする考え方は、近年、 「モノ理論」などとして非文字史料に着目する考古学や人類学、美術史の分野で重要な概念となっており、 建築史研究にも適用されつつある~2。新シリーズの第一回にあたる今回は都市空間の物質性のなかでも、とくに即物的な局面に着目することにしたい。人間が作りあげてきた建築や都市空間には機能や意味がこめられており、従来の建築史分野の都市史研究は形態を復元したうえでそれらを読み取ろうとしてきた。しかし、物質性の観点からは建築•都市空間は人工物というよりも自然界の物質と同一の地平で捉えられる。また、素材の段階から成形され改造され解体されるまでは一続きの物質の過程と見なされる。物質と建築•都市空間の間を一連のものとして広く捉えたたうえで、その連関や境界、人間との相互作用に迫ることが必要であろう。そのための作業仮説として、人工物としての建築•都市空間という通常の見方に加え、近年の「モノ」に固有の次元を見出そうとする見方、それらを分解した石、木、コンクリートなど素材としての次元というように三つの位相に分け、とくに第二、第三の位相から建築•都市空間を捉え直すことにしたい~3。本シンポジウムでは建築史研究者に加えて物質文化、考古学、人類学の専門家を迎える。セッションI では自然環境による規定の問題、建築レベルの素材•材料の問題、土木インフラレベルのスケールの問題などを取り上げ、建築•都市空間がどのように描き直されるかを論じる。セッションIIではこのような性質を踏まえた人間の実践を取り上げ、建築•都市空間との相互作用的な関係に迫る。以上を通じて、建築史分野都市史研究の原点としての空間自体を問い直す契機としたい。