放射線被ばくで生じたDNA損傷を正確に修復する分子メカニズム

摘要

放射線が人体に当たると、細胞内のDNAに傷が生じる。放射線によって生じるDNA損傷には様々な種類があるが、その中で細胞および人体に最も大きな影響を及ぼすのがDNA二本鎖切断(DSBs:DNA double-strand breaks)である。DSBが修復できなければ細胞は死に、修復エラーが起これば染色体異常や遺伝情報の変化が起こる。大量の細胞死は確定的影響の原因となり、染色体異常や遺伝情報の変化は確率的影響の原因となりうる。そのためDSBの正しい修復は、人体が放射線に対処する上で必要不可欠である。ヒト細胞における主なDSB修復経路は、非相同末端結合修復(NHEJ:Non-homologous end joining)および相同組換え(HR:Homologous recombination)である。NHEJは全細胞周期、HRは主にS/G2期に生じたDSBを修復する。HRは無傷の姉妹染色分体を用いて修復するため、NHEJと比べ、正確性が高いと考えられている。しかしながらこれらの修復経路がどのように正確にDSBを修復しているのかは、まだよく分かっていない。