加齢に伴う脳萎縮が交通事故時の外傷性硬膜下血腫に及ぼす影響

摘要

平成29年における国内の交通事故の損傷部位別死者数の構成率では、頭部が42 %と最も高い割合を占めており，頭部傷害の低減が重要な課題である．また，米国における交通事故時の乗員の頭部傷害では，重症以上の場合に硬膜下血腫が最も大きい割合を占め，さらに高齢者は硬膜下血腫の受傷リスクが高くなっている．加齢に伴う変化として脳萎縮があり，一般成人に比べ脳の質量が小さくなる．硬膜下血腫の発生要因として，脳表と硬膜を繋ぐ架橋静脈 (BV)の破断が知られており，脳萎縮により頭部衝撃時の脳の挙動が変化し，BVの変形に影響を与える可能性が考えられる．先行研究では，脳の有限要素モデルを用いて脳萎縮がBVの変形に与える影響が調査されており，斜めオフセット衝突や屍体実験の頭部衝撃を再現した検討がなされている．一方で，交通事故で頭部に生じる角速度や角加速度の大小がBVの変形に与える影響に関して，脳萎縮を考慮した検討は十分に行われていない．