体内埋込み型人工心臓用経皮エネルギー情報伝送システム: 外周2回巻き８の字形コイルの外周切断による磁界影響の低減

摘要

心臓移植は内科的，外科的治療では救うことのできない重篤な心疾患をもつ患者への治療法として普及している。日本国内においても，2010年の改正臓器移植法施行により，心臓移植件数は年々増加している。しかしながら，現状としてドナー不足により心臓移植希望者の１割にも満たず，多くの移植希望者が１年以上待機している。心臓移植希望者がドナーを発見するまでの橋渡しとともに，半永久的な代替としてQOL(Quality of Life)の高い人工心臓が求められている。現在，実用化されている埋込み型人工心臓の駆動用エネルギー供給は，体外から体内にケーブルを貫通させるものであり，断線や皮膚貫通部における感染症のリスクにさらされている。QOL向上のため，非侵襲にエネルギー伝送を行う経皮エネルギー伝送システム(Transcutaneous Energy Transmission system:TETS)の実用化が提案されている。また，体内外の情報伝送では，経皮情報伝送システム(Transcutaneous Communication System:TCS) が研究されているものの，TETSとは独立した装置を体表面に装着することが必要であり，患者にとって煩わしい。人工心臓駆動用エネルギー伝送と情報伝送を単一化し，体表に単一装着するのみでこれらを行うことで部品点数の削減もでき，QOL向上が期待できる。これらを満たす一例として，空心扁平型エネルギー伝送コイルと8の字形情報伝送コイルを一体にした伝送装置を使用する方法が提案されている。しかしながら，情報伝送コイルを所望の周波数で用いるにあたり大型化が問題として挙げられる。このため，外周に巻いたコイルを巻き戻した構造を有する外周2回巻き8の字形コイルが提案されている。本研究では，エネルギー伝送による磁界が情報伝送に及ぼす影響をこれまで以上に低減するため，外周2回巻き8の字形コイルの一部を切断した。さらに，経皮トランスフォーマの位置ずれによる磁界影響を，情報伝送用体内コイルの外周切断の前後で比較をしたので報告する。