量子化学計算によるヒト免疫不全ウィルス中和抗体と糖タンパク質上糖鎖間の親和性比較

摘要

体内の細胞表面は多様な糖鎖によって覆われており，これらの糖鎖とタンパク質間の極めて高い特異性をもつ相互作用によって，細胞間·免疫系の認識において重要な役割を担う．しかし，その特異性の詳細は明らかになっていない．ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)にN 結合型糖鎖を介して結合する中和抗体であるPGT 抗体群は，抗体間の相同性が高い(98~70%)にも関わらず，様々なN 結合型糖鎖との親和性は抗体間で大きく異なることが実験的に示されている [1]．これまで，電荷を持たない高マンノース型糖鎖に対するPGT 抗体群の親和性の違いの要因を，計算化学の手法を用いて明らかにしてきた [2]．本研究では，負電荷をもつシアル酸（N-アセチルノイラミン酸）を含む複合型糖鎖に対する抗体の認識能の違いにも注目した．