山梨県における醸造用ブドウ栽培のためのクラウドを用いた地域連携型防除支援システムの構築と導入について

摘要

農作物の収量は病気および害虫の発生によって大きく減少する。主力農産物の一つである醸造用ブドウの産地として有名な山梨県では2010年、2011年と梅雨時期の降雨量が例年よりも多く、その後の曇天も続いたことから醸造用ブドウ園においてべと病被害が猛威を振るった。今年は5月の末頃から県内全域で黒豆病が流行しており、深刻な事態にある。これらの病気は圃場内外において越冬した糸状菌によるもので、好適気象条件が一定時間継続すると圃場内外において繁殖する。適合農薬の散布により病原菌密度を低く保つことで病気の蔓延を防ぐか、病兆拡大後の農薬散布により病兆の拡大を抑止することで対処する。リーフロール病やえそ果病といったウイルスによる病気にはウイルスフリーの台木を用いた耕種的防除法しかなく、感染した苗は圃場から持ち出し焼却する。植物は動物のような免疫系を有していないため、一度病気が発生すると根絶は不可能である。また、コガネムシ類（Mimela splendens）による葉の食害は光合成量を減少させ、クビアカスカシバ（Toleria romanovi）の幼虫といった幹の師部を食害する害虫は、栽培家の目につきにくい地際において被害を拡大する。防除の基本は病原もしくは害虫密度のコントロールが基本である。しかしながら、病害虫防除は一般に個々の栽培家が病兆発見から農薬選定、農薬散布までを独自に行っており、1軒当たりの栽培面積が狭い日本では農薬を散布しても薬効が切れた頃に周囲の圃場から病害虫が飛散し、病害の再発が生じうる。病害虫が拡散先において同一の農薬を散布される可能性も少なくなく、農薬耐性獲得の一要因ともなりうる。最近の国産ワイン市場の拡大により醸造用ブドウの栽培面積は山梨県内においても増加傾向にあり、特に病気に弱い欧州系品種の導入が進hでいる。今後の国産ワイン産業の発展のためには産地ぐるみの組織だった防除体系を定着させる必要がある。山梨県ワイン酒造組合若手醸造家·農家研究会では醸造用ブドウ栽培研究グループTeam Kisvinの池川仁氏を講師として病害防除ガイドラインの講習会を開催しているが、この取組み以外に具体的かつ継続的な活動は見られないのが現状である。そこで、筆者らは山梨県内において病気の発生状況や直近の防除履歴をスマートフォン等のタブレット端末を用いてクラウド管理し、より効率的かつ効果的な薬剤散布を可能にするためのスマートフォン用アプリを開発することにした。ここでは、システムの概要と実践導入にむけた構想について解説する。