声道解析モデルを用いた音声診断技術の開発

摘要

喉頭がhや声帯ポリープなど，声帯付近に発生する病変は声帯の振動に影響を与え，初期症状として発声障害が現れる．これらの疾患に対する音声診断法として，GRBAS 尺度が広く用いられている．GRBAS 尺度は，医師が患者の声を聴き声の気息性や無力性などを評価するものであるが，医師の聴覚による診断であるため，客観性が十分に確立されていないという問題がある．客観的な音声診断法として，声のピッチ摂動から病的な兆候を抽出する手法が提案されているが，人間の音声波形は複雑であるため，音声波形そのものから診断を行うことは困難である．これに対し，発声時の声帯の流速変動（声帯音源）を知ることができれば，より正確な診断が可能となる．音声生成を声帯音源と声道の調音特性に分離する音源フィルタ理論に基づき，声帯音源波形に一定の仮定を置くことで，測定音声から声帯音源波形を算出する手法がこれまでに提案されている．しかし，これらの手法では発声障害と病変の物理的因果関係が不明であり，その妥当性は実験的に確認されていない．