乾燥地における太陽光発電と節水灌漑を融合した作物栽培技術パッケージの開発―技術パッケージの実証試験

摘要

乾燥地での安定かつ持続的な農業の実現に向けて，それに必要な水資源やエネルギーをいかにして確保するかが克服すべき重要な課題である．乾燥地にある途上国を中心に太陽光発電や風力発電を用いて井戸水を揚水するシステムの導入事例も多くあるが，コストの問題やメンテナンスに係わる人材不足の問題などから，長期にわたる運転や設備導入が困難な状況にあることが指摘されている．また，従来からの乾燥地農業における灌漑技術は，主に地下水に依存してきたが，大規模灌漑による地下水の枯渇や，過剰灌漑による農地の塩類化などの問題を引き起こしてきた．したがって，これらの問題を解決した上で、これまでの乾燥地農業技術に無い、水資源や土壌などの保全を考慮した「環境的持続性」と，現地のインフラ構造，社会的·経済的条件に適応した「経済的持続性」を併せ持った技術の開発が重要である．さらには，乾燥地には太陽エネルギーや風力エネルギーのなどの豊富な自然エネルギー資源がある.自然エネルギー資源から発電した電力を農業生産に供給することは，化石燃料からの温室効果ガスの排出を低減でき,作物生産の経済性にも良い影響をもたらすものと考えられる．本研究では、乾燥地あるいは途上国で農作物を持続的に生産する省資源型栽培システムの開発を目的として、風力·太陽光などの自然エネルギーを活用した電力を供給する工学的手法と、低塩分濃度の灌漑水による点滴灌漑等を利用して耐塩性の野菜や樹木を栽培する農学的手法を融合した、節水灌漑栽培の技術パッケージの開発を目指している．具体的には,まず風力発電や太陽光発電で得られた電力を蓄電し，その電力を用いてポンプを稼働させ海水を揚水する．次いで，揚水した海水を脱塩処理して，灌漑水を生成する．生成された灌漑水は，点滴灌漑等による節水灌漑技術を用いて，耐塩性の作物や樹木の栽培や野菜栽培へと供給される. このようなシステムについて,著者らは鳥取大学乾燥地研究センター敷地内の海岸砂丘地およびビニールハウスを利用してシステムを構築し,実証試験を開始した．そこで本発表では，実証試験の経過報告を行う．