槍ヶ岳・穂高連峰に至る登山道における石材を用いた山岳建築に関する構法とその変遷

摘要

以上、本稿では、槍ヶ岳・穂高連峰に至る登山道を対象に、石材を用いた山岳建築の分布とその変遷を把握し、構法の復原とその分類を行った。石材を用いた山岳建築は特に高所において木造の山岳建築に先行して登山者の休泊場所として利用されていた。その構法には、主要な構造が大岩のもの（岩小屋）と石積みの壁の上に屋根を設けるもの（石室）があり、後者には建設の主体が中間技術者のものと専門技術者のものがあった。これらの構法に着目すると、大正前期にその建設の主体が前近代的な中間技術者から近代的な専門技術者へと変化しており、この過程には、河野齢蔵らのような山岳に精通した人物による建築知識の伝達ともよぶべき文化の継承があった。