台湾濁水渓河系における都市形成の特質と沙仔崙の変容その１ 19 世紀末・20 世紀初の沙仔崙——漳州系同姓集落としての社会・空間的特質

摘要

彰化平野は、台湾最長の流路を誇る濁水渓の流域（以下、「濁水渓河系」）であり、清朝時代には、彰化県城の統治圏、対岸貿易港・鹿港の経済圏であったと考えてよい。報告者らの一連の研究では、この圏域内に展開するいくつかの都市類型のうち、扇状地の中央（扇央部）に立地する内陸型の河港都市をターゲットとしてきた（図１）。この〈内陸河港都市〉群は、水害や械闘（水利や地境等の紛争に発する武力闘争）を契機として頻繁に都市社会の分裂・移動が生じたことに大きな歴史的特質がある。　これまでに寶斗（北斗）、田中央（田中）の調査成果を報告してきたが( *1)、本稿以下4 編では田中の前身である「沙仔崙Soa-lūn」（現・彰化縣田中鎮）を取り上げる。本稿ではまず沙仔崙の歴史的位置づけについて述べる。