視覚:6.1視覚生理学

摘要

近年の視覚生理学分野では,外界からの光刺激が光受容器を通じて生理作用をもたらす機序やその生理的影響に関する研究が盛んに行われている.人間の網膜には桿体と錐体が存在し,それぞれ明暗と色の情報処理(視覚系情報処理あるいは撮像系情報処理)を担っていることが古くから知られていたが,2000年頃に錐体や桿体とは異なる第3の光受容器が網膜に確認され,概日リズムの光同調や光瞳孔反射などの非視覚系情報処理(非撮像系情報処理)や明るさの知覚などの視覚系情報処理に寄与していることが報告されている.この新しく発見された第3の光受容器は,メラノプシン含有網膜神経節細胞 mRGC(melanopsin-expressing Retinal Ganglion Cell),あるいは内因性光感受性網膜神経節細胞ipRGC (intrinsically photosensitive Retinal Ganglion Cell)と呼ばれることが多い.mRGCを通じた光刺激の概日リズムヘの影響は,人間の健康の維持や増進,最終的には寿命の延伸に関わると考えられることから,視覚生理学の分野の中では近年特に注目されているトピックスである.また,視覚生理学の分野では,眼球特性に対応する照明計画や,LED照明が人間の眼球ヘ及ぼす影響,mRGCの分光感度特性を考慮した照明など,ょり応用的な側面からの研究も進められている.