フルオラスケミストリーをめぐる物性の動向

摘要

「フルオラスケミストリー」という言葉をご存じの方も多いと思うが，近年，このフルオラスケミストリーは，生成物の分離が容易であること，溶媒の再利用が可能であることから，グリーンケミストリーの一分野として注目されている。 フルオラス（fluorous）とは親フルオロカーボン性という意味の造語である。 高度にフッ素化された化合物，すなわちフルオラスな化合物は一般的な有機溶媒や水にはほとhど溶けないが，ベルフルオロアルカンなどの溶媒（フルオラス溶媒）には良く溶ける。 この性質を利用するのがフルオラスケミストリーであり，数多くの有機反応に利用されている。フルオラス溶媒を用いる有機反応を図1を用いて説明すると，反応に用いる溶媒であるフルオラス溶媒とトルエンなどの有機溶媒は，室温では二相を形成し，フルオラス相にはフルオラスな触媒が，有機溶媒相には原料がそれぞれ溶解している。 しかし，加熱により均一相になる。反応後，冷却することにより再び二相になり，触媒はフルオラス相に，生成物は有機相に存在する。 したがって，反応後にフルオラス相と有機相を分離するだけで生成物と触媒を分離することが可能であり，かつ分離後の触媒を含むフルオラス相を再利用することができる。そのため，グリーンケミストリーの一分野として注目されている。 本稿では，このフルオラスケミストリーをめぐる最近の物性の動向について紹介する。