腐食に及ぼす光の作用と紫外光による不働態皮膜改質

摘要

本稿では著者らが最近行っている紫外光照射による不働態皮膜改質とそれに伴う耐食性の変化についてまとめてみた。ステンレス鋼への紫外光照射は不働態皮膜中Cr濃化を促進し，その結果塩化物水溶液中での孔食発生を抑制することが明らかとなった。 Crの濃縮機構について，いくつかの可能性があり，半導体の量子過程が関連しているとことは確実であるが，その詳細は検討中である。 一方, 純Ni，Feの不働態についても光照射により耐食性が向上したとする報告があり，著者らも一部確認した。 皮膜内カチオンの酸化数変化などの不働態皮膜の改質が生じているが，今後の研究課題である。 ところで，不働態皮膜よりも厚いさび層についても同様の光効果が生ずる可能性があり，耐候性鋼に生成する酸化物層についても光効果による耐食性の変化を検討する必要があると思われる。 なお，最近話題の本多·藤島効果に基づくTiO_2被覆の光防食効果については本稿で触れなかったが，紫外光による皮膜改質同様，酸化物半導体の光機能を利用した効果的な耐食被覆である。これまで，半導体薄膜への光照射が構造変化をもたらすことにはあまり関心が持たれていなかったが，今後半導体薄膜の新たな機能化としての発展が期待される。