土壌微生物が創る共生の世界 一その先端的研究事例と農業への応用的研究展開 1.ダイズ根粒菌の生態研究と農業技術への応用

摘要

本講座を連載するに当たって「はじめに」の稿で，近年 の土壌微生物解析手法の発展に関して述べた.微生物群集 を解析する手法の開発と新しい知兌の蓄積は目覚ましいものがあり，PCRが普及しだしたばかりの私の学生時代と は隔世の感がある.また，近年，植物,微生物共生研究に 関する植物側およぴ微生物側の分子生物学的な成果の進展 も大きく，これらの成果に関しては日本人研究者の貢献度 が非常に大きい.植物,微生物共生研究の分子生物学的な 成果に関しては，坂本（2015)の総説を初め，Poppand Ott (2011)やHarrison (2012)の総説等を参考にして いただきたい.さて，筆者は研究テーマを，「ダイズ根粒菌 のゲノム生態学的研究」として，窒素固定能の高い有用根 粒菌の接種効率を高めることを最終的な目標に，主として 土壌中や着生根粒における根粒菌の群集構造を解析してい る.筆者の研究においては，未だにダイズに着生した根粒 からの根粒菌株の分離，カルチャーコレクションの収集と 遺伝子のシークヱンス解析を基軸としたゲノム多型解析お よび数理生態学的解析を主要な実験手法として研究を進め ている.これは研究を行う上で大きなメリットがあるから に過ぎない.人間の腸内細菌群集が，個人によって異なる と同じように，ダィズも品種や遺伝子型が異なると着生根 粒菌の群集構造が異なることは想像に難くない.また，同 じ土壌の場合でも栽培時期や栽培管理等のダィズを取り巻 く栽培環境によつて感染根粒菌の群集構造が変化するとも 考えられる.このような情報を得るためには，着生した根 粒から根粒菌を分離して解析する手法が必要となる.