生物統計家·試験統計家の育成

摘要

わが国の臨床試験の根幹を揺るがす不正行為が2013年に明らかとなった。ある製薬会社が5つの大学の内科系教授に依頼し、当該製薬会社の降圧薬を試験薬として実施した市販後臨床試験において、試験薬に有利となるようなデータの捏造がなされたことが指摘されたのである。うち3つの論文は撤回され関係者は処分された。いずれの研究においても当該製薬会社の社員が身分を伏せて統計解析を担当し、データ捏造にも加担し、結局逮捕される結果となった。ある研究者は「自分たちにはデータ解析の知識も能力もない。」と述べ、利益相半が明らかな会社社員に統計解析を丸投げしたことを認めたが、この「事件」はわが国の研究者(アカデミア)主導の臨床研究の基盤の脆弱さ、とくにアカデミアで臨床試験に携わる生物統計家(試験統計家)不足を露呈した。この事件もきっかけとなり、日本医療研究開発機構は日本製薬工業会からの資金援助も得て、アカデミア主導の臨床試験に関わる生物統計家育成事業を2016年度から開始した。製薬会社で臨床試験に関わる生物統計家については、本稿で紹介する(財)日本科学技術連盟医薬データの統計解析専門コースなど、教育体制はそれなりに存在したものの、アカデミアにおける人材育成とポストは不十分であった。厚生労働省は2015年に「国際水準の臨床研究や医師主導治験の中心的な役割を担う」医療法上の存在として、臨床研究中核病院の要件を発表したが、そこでは2人の生物統計家を常勤として配することが求められている。上記の育成事業はこの流れに沿うものである。そもそも臨床試験に携わる生物統計家(試験統計家)に求められる要件·資質とは何か？本稿では日本計量生物学会が取り組んでいる試験統計家の認定制度についても紹介する。